誰でもわかる知的財産権
人の知的創造活動により生み出されたアイデア・技術などは我々の社会や生活をより豊かなものとしてくれます。これらは人の知恵から生み出された財産であるとして、「知的財産」と呼ばれます。世の中で一般的に財産といえば、お金、家、土地、車など形のあるものを通常思い浮かべるものと思いますが、知的財産は形を持たないものですので、「無体財産」とも呼ばれます。
形を持たないということは、そのアイデア・技術を見聞きした他人から容易に模倣されやすいということになります。たくさんのお金や時間を使って完成した知的財産をいとも簡単に真似されてしまうのでは、せっかくの努力も水の泡となり、人々から新しいものに取り組もうという意欲が奪われてしまい、産業の発展が停滞してしまいます。
そこで、新しいアイデア・技術などの知的財産を権利として保護し、社会の更なる研究開発への意欲を向上させたり、取引上の信用を維持したりすることで、産業の発展を図ることを目的に考え出されたのが、知的財産権制度です。
知的財産権は、種類に従い様々な法律が定められ、守られています。そして、特に産業の発展と関わりの深い特許権・実用新案権・意匠権・商標権の各権利は、特許庁が管轄しています。なお、本の著作や音楽などでよく知られている著作権は、文化の発展を目的とする権利として文化庁が管轄しています。
特許権・実用新案権・意匠権・商標権の各権利は、特許庁に対して出願し、審査を経て、登録を受けることにより権利が発生します。これらの権利はお金や車などの有体財産と同じように、他の人の権利を勝手に使用することはできず、その権利を有する者が独占的に使用することができます。また、権利を他の人に売ったり、譲ったりすることもできます。さらに、他の人が権利を使うことを許可することにより、ライセンス料を得ることもできます。
知的創造物に関する権利である特許権・実用新案権・意匠権は存続年数に限りがあり、期限の到来により権利が消滅します。これは、一定期間経過後の発明や技術は、権利者に独占させるよりも、みんなの財産として誰もが自由に使うことができることとする方が、産業の発展につながるとの考えに基づくものです。一方、商標権は、商標という標識に生じた商品やサービスの信頼を保護することが目的であることから、継続して使用したい場合は更新手続をすることで半永久的に権利を持続することができます。
特許制度は、産業の発展に寄与する発明をした者(又はその承継人)に対し、その発明の公開の代償として、一定期間、その発明を独占的に実施できる特許権を国が付与する制度をいいます。発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条)と規定されています。
一方、実用新案制度も、「自然法則を利用した技術的思想の創作」(実用新案法第2条)である考案を保護するとしており、本質的には同じものですが、保護の対象が「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」(実用新案法第3条)とされています。
特許は、書面に記載され特許庁に出願された発明の内容が、特許法上の発明にあたるのか、産業として実施できるものなのか(産業上利用性)、今までにない新しいものか(新規性)、容易に考え出すことはできないか(進歩性)、先に出願されていないか(先願)、などの要件について審査され、要件を具備する場合に特許権が付与されることとなります。
実用新案制度では、出願された実体的内容の審査は行われず、一定の基礎的要件を具備するものに対して登録されます。小発明ともいわれる考案を特許制度よりも早期に簡易に保護できる制度となっています。
保護対象 |
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存続期間 | 出願の日から20年間(医薬などに限り最大5年の延長可能) |
保護対象 | 物品の形状、構造又は組合せに係る考案 ※従って、方法の考案や一定の形状のない考案は保護対象外 |
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存続期間 | 出願の日から10年間 |
意匠制度は、デザイン(意匠)を新しく創作した創作者(又はその承継人)に対し、独占排他的な意匠権を一定期間付与する制度をいいます。意匠とは「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」(意匠法第2条)のことをいいます。また、令和2年4月1日より法律が改正され、建築物の外観や内装といった建築物の形状等やデジタル機器で用いられる表示画像といった画像が「意匠」として保護できるようになりました。
特許と同様に、特許庁への出願と審査を経て意匠登録がされ意匠権が成立します。意匠登録を受けられる意匠には、新しさ(新規性)や容易に創作できないこと(創作非容易性)などの要件が求められます。また、工業上利用することができる意匠であることも要件とされていることから、芸術品のように一品製作のものは対象外となります。
保護対象 |
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存続期間 | 出願の日から25年間 |
商標制度は、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービス(役務)を他人(他社)のものと区別するために使用する目印(識別標識)、即ち、商標に対して、独占排他的な商標権を付与する制度です。新規なアイデアなどを保護する特許権、実用新案権、意匠権と異なり、商品やサービスに付ける「マーク」や「ネーミング」を選択し使用することで、商標に蓄積した使用者の信用や信頼を、商標権として守ることを目的としています。
たとえば、ペットボトルに入ったお茶に何らラベルが付けられずに売られていた場合、そのお茶の見た目が一緒なら、どの会社の製品なのか、どんな味なのかもわからないことになります。このペットボトルに商標をつけることで、消費者は、売られているお茶の違いがわかり(自他商品識別機能)、生産者・販売者を知ることができ(出所表示機能)、お茶の中身もわかって購入することができるようになります(品質保証機能)。また、かっこいい商標を使用してお茶を販売することが宣伝となり、消費者の購買意欲を生むこと(宣伝広告機能)も期待できます。
商標制度も、特許庁へ出願して審査を経てから商標登録され、商標権が成立します。主に、その商標が、自分と他人の商品・サービスを区別するために使用できるのか(識別力)、公益に反する商標ではないか、他人の商標と紛らわしい商標ではないかという要件について審査されます。
商標制度における特徴として更新制度が存在することがあげられます。商標登録を更新することで半永久的に権利の存続を図ることができ、商標を通じたブランド・ビジネスの保護を図ることができます。
保護対象 | 文字、図形、記号、立体的形状、音、色、ホログラム、位置などの商標 |
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存続期間 | 登録の日から10年間(10年単位で更新が可能) |
外国において知的財産権の保護を受けるためには、それぞれの国でそれぞれの制度に従って手続を執る必要があります。たとえ日本で特許権を取得したとしても、その効力は日本国内で及ぶのみであり、アメリカであればアメリカに、中国であれば中国に特許出願をして、それぞれ登録を受ける必要があります。
以上のように、これらの外国出願をする場合、最終的には保護を図りたい国の数だけ手続を執る必要がありますが、出願に際して、特許であれば特許協力条約(PCT)、意匠であればハーグ協定、商標であればマドリッドプロトコルといった、手続を簡易にする方法が国際条約で取り決められていますので、それらの制度を利用することもできます。
知的財産についてより詳しく知りたい、国内・海外への知的財産権についての出願について聞きたいなど、ご相談のある方はコーテック国際特許事務所へお気軽にお問い合わせください。